馬主になるには日記

馬主登録から2年で牧場経営まで始めた若手馬主さんの話

2017年12月16日

新馬購入から繁殖の話まで、脂っこいところを先輩馬主に聞いてみました。

「サラブレッドオークションの話」のいもこさんにご紹介をいただき、馬主登録から2年で9頭の繁殖牝馬を購入し、今年になって牧場経営まで始めたという、若手馬主のRC0085さんにお会いすることができました。
新馬購入のポイント、繁殖までを視野に入れた馬主生活の楽しみ方など、普通の競馬サイトには書かれてないディープな話をあれこれお伺いしてきました!

繁殖牝馬のために牧場をまるごと借り上げた

田中ことあらいちゅー(以下、田中)「はじめまして。RC0085さんは30代半ばにして、繁殖牝馬を9頭も所有されていると聞きましたが、一体どういう方なのでしょうか(笑)」
RC0085さん(以下、RC0085)「普段は、都内で会社経営をしています。競馬好きが高じて、馬だけでなく繁殖牝馬も購入するようになり、最近になって静内で牧場経営も始めました」
田中「いきなり凄い話になりましたね。牧場を買い取られたのですか?」
RC0085「いえいえ。牧場をスタッフごと借り上げたのです。繁殖牝馬を牧場に預けると、だいたい1頭につき月10〜15万円の維持費がかかります。計算してみると、繁殖牝馬が7頭を越えたあたりから、自前でスタッフを雇って牧場を経営したほうが安い、ということがわかったんです」
田中「もはや畜産農家さんですね!」

RC0085「はい。競馬は楽しみではありますが、事業だという意識をもってやっています。馬主は損をするもの、と言われていますが、しっかり勉強して計算すればそうでもないぞ、というのが僕の考えなんです」
田中「運営経費もそうですが、種付け料の負担もすごそうですね」
RC0085「さすがに、ディープインパクトのような超高額の種馬はつけられないですね。あと、種馬の株を安く買ってくることで、みなさんが思っているより種付けの経費は抑えています」
田中「安く買えるのですか?」
RC0085「競馬ゲームなどにも出てきますが、生産者さんが持っている使わない種付け株が取引されていますよね。時期もあるものですから、公表価格が50万円の種付け株が、タイミングがよければ15万とか、20万で買えることがあるんです」
田中「なるほど。生産された馬は、基本的に売却されるのですか」
RC0085「来年はおそらく、6〜7頭の仔馬が取れると思います。2割ほどは自分で競馬に使って、残りは売却する方針です」

新馬購入から育成牧場への預託までにかかる費用

田中「個人的に、馬主デビューは新馬からやりたいと思っているので、いい馬がいたら売って下さい!」
RC0085「ははは、ぜひ買って下さい(笑)。ところで、予算はどれくらいですか?」
田中「ざっくり、購入からデビューまで500万円くらいかなと思っています」
RC0085「それくらいあれば大丈夫です。今は馬の価格が高騰していますが、やや難がある馬だとか、牝馬ならまだまだ安く購入できます。セリや庭先で100〜200万円で買ってきて、育成に入れて、競馬場でデビューさせる流れなら、500万円あれば十分でしょう」
田中「育成にかかる期間と費用はどれくらいが目安ですか」
RC0085「育成費用は牧場によってピンキリです。社台系なら月40万円ほどかかりますが、一般的なところであれば、月25万円といったところでしょう。預け入れる期間は一概には言えませんが、9ヶ月ほど預けると仮定すれば、入厩まで200万円も用意すれば良いでしょう」

田中「育成牧場の良し悪しというのはありますか」
RC0085「あります。まずは施設やエサの良し悪しがあります。そしてスタッフの良し悪しと、経営方針の良し悪しですね」
田中「施設とスタッフはわかりますが、経営方針というのは?」
RC0085「例えば社台だと、業務を平準化して、どの馬も偏りなく育てるという方針をとっています。規模が大きいので、そうしないといけませんよね。逆に中小の牧場では、担当者の才覚に任せている所が多いでしょう。それから、最近は馬術出身者を育成の担当者に当てる、という試みが行われています」
田中「馬術というと、国体やオリンピックでやっているあれですか」
RC0085「そうです。馬術と競馬の騎乗では、まったく馬との接し方が違うんですね。育成に馬術のトレーニングを取り入れることで、馬とのコミュニケーションを深くして、馬に言うことを聞かせようと言うわけです。そこそこポピュラーになっていて、ハードトレーニングで有名な某育成牧場なんかは、これに対応するのが遅れて成績が下降している…という噂が立ったりするほどです」

新馬購入のポイント

田中「話が前後しますが、新馬の購入で気をつける点はありますか」
RC0085「セリでの話に限定しますが、まずはレポジトリをきちんと見る必要があります。骨が細かったり、異常があったりするものは、レントゲン写真でわかります。そして何より、内視鏡が大事です。気道に異常がある馬だけは、かなりの不利がありますから…」
田中「息をしないで走るのは無理ですからね」
RC0085「あとは、現地で馬を見ます。脚がやや内向している程度のことであれば、削蹄で矯正することができます。問題があるが人為的な原因によるものだとか、解決可能なものであれば、あくまで価格次第ですが、買ってよいと思います」
田中「やはり価格帯的には牝馬が狙い目になりますか」
RC0085「困ったことに、かなりの難ありでも、牡馬なら売れてしまうほど市況が良いのです。管囲があって、デカくて、牡馬であれば、どんな馬でもバシバシ高値で売れていきます。荒井さんの予算であれば、始めから牝馬、それもダート向きに狙いを絞った方が良いと思います」

田中「RC0085さんは、具体的にどうやってセリで買っているのですか?」
RC0085「基本は先ほど申し上げた通りです。あとは、北海道に信頼できる仲間の獣医師さんがいて、適宜意見を聞いています。事前にピックアップして、現地で70~80頭を見て、そのうち1頭買えれば良いほうです」
田中「そんなに少ないんですね」
RC0085「お金さえかければもっと効率はよいのでしょうが、それでは事業として成り立ちません。仕入れで負けているということですから」

TPPでアメリカの新馬を変えるようになる?

田中「海外から馬を仕入れたりはしないのですか」
RC0085「実は今、それを考えているところです。TPPのおかげですね」
田中「関税ですか?」
RC0085「はい。海外から馬を買ってこようと思っても、関税が高すぎて、低価格帯の馬では割に合わないのです。そのため今までは、関税のかからない受胎した繁殖牝馬を買ってくるという方法がとられていました。持ち込み馬と言われているもので、ビワハヤヒデなんかがそうですね。とはいえ、それでは繁殖も含めての話になってしまいますよね」
田中「さすがにそこまでは…ですね」
RC0085「ところが、TPPで競走馬の関税が廃止されれば、輸送費だけで馬を持ってくることが可能になります。キーンランドなどのセールでも、最後の方になると3000ドルとか、5000ドルの馬が出てきます。輸送コストは片道120~150万円ほどなので、ひょっとすると、日本で新馬を買うよりお買い得かもしれません」
田中「日本産馬も十分に強くなっていると思いますが、畜産農家さんが猛反対しているわけですから、やはり価格以上に走りそうなんでしょうね」
RC0085「ちなみに、オータムセールが終わっても、まだまだ新馬は買えますよ。牧場に残っている馬がいるはずなので、地道に回って売ってくれと頼めば、安く買えるはずです」
田中「さすがにそれは、目利きができないと厳しそうですね…(笑)」

トレーニングセールってどうなの?

田中「生産者さんや先輩馬主さんに話を聞くと、トレーニングセールで買うのはやめておけ、と口々に言われます。RC0085さんはどう思いますか?」
RC0085「セリ全般に言えることですが、初心者にはハードルが高いと思います。具体的には、コンサイナー(セリに向けての売却請負業者)さんがピカピカに馬を仕上げてくるので、馬本来の良し悪しがわからなくなるというのが一つ。そして、彼らはトレーニングセールで走りそうな馬を仕入れている、というのを忘れてはいけません。そういった馬は、トレーニングセールで時計を出すことがゴールになっているかもしれませんよね」
田中「それはもう、素人にはわかりませんね…」
RC0085「腕の良いコンサイナーさんは、セールに向けてエサなどもすごく工夫しています。例えばエサに米油を配合して毛ヅヤを良くします。運動もしっかりさせるので、筋肉も目立つようになります。要するに、セリに向けて馬を仕上げてしまうんですね。なので、どの馬も良く見えちゃうと思いますよ」

田中「そういう馬は、デビューしたらよく走るのですか?」
RC0085「間違いなく、仕上がりは早いです。門別の新馬戦とかで圧勝して、その後ピタッと勝てなくなる。そういうことがよくあります(笑)。とはいえ、即戦力を求める馬主さんは仕上がっている馬を欲しがっていますし、それはそれで、各自の判断ではあるんです」
田中「ありがとうございます。やはりオータムセールか、サマーセールを目標にしたいと思います。購入したら、おすすめの育成牧場を教えてください(笑)」
RC0085「はい。知識がないと、牧場さんとか、調教師さんの言うがままになってしまいますよね。それだと面白くありませんし、費用が適正なのかもわかりません。馬主のみんなで試行錯誤して、情報交換することが、これからは大事になると思います」

…というわけで、本当はもっとあれこれエグい話もあったのですが、書けないことが沢山あるので、これくらいにしておきます!

「私の使命は、新人馬主さんの恐怖心を取り除くことだと思います」というRC0085さん。
いもこさんも含め、みな新宿近辺を根城にしているということなので、「じゃあ新宿区馬主会を作ろう!」ということで、話が盛り上がりました(笑)。
これからも、色々と引き回していただければ嬉しく思います。

【リンク】RC0085さんのブログ「RCの馬主生活」

  • この記事を書いた人

田中(あらいちゅー)

2018年のサマーセールでサウスヴィグラスの牝馬を購入し、新馬→2走目と連勝し、1年間足踏みしたのち念願の3勝目を獲得。川崎と盛岡で共有馬主もしています。詳しい自己紹介は運営者情報からどうぞ。

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